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2019.1.25

車両のプロたちが持てる想いと技術を結集!製作現場で聞いた「観光列車のつくりかた」

ヒト

地域を味わう旅列車「 THE RAIL KITCHEN CHIKUGO 」は、3月23日の運行開始に向け、車両工事が山場を迎えています。西鉄では、車内で食事を提供する列車を走らせるのも、本格的な車両改造工事をするのも初めてのこと。その工事は毎日がチャレンジの連続です。今回は、そんなモノづくりの舞台裏をご紹介するため、工事真っ最中の筑紫工場で、川崎重工業の三谷さんと、実際の工事を行っている西鉄テクノサービスの井手、そして鉄道事業本部車両課の山本がお話しします。

(写真左から)川崎重工業の三谷雄一郎さん、西鉄テクノサービス車両整備事業部の井手亮、西鉄鉄道事業本部車両課の山本幸秀。背後の列車は改造中の車両6050形。

3社体制で挑む、未体験の大規模工事

THE RAIL KITCHEN CHIKUGO の車両は、新造ではなく改造。これまで20年ほど通勤電車として活躍した川崎重工業製の6050形をベースに改造工事を行っています。また、列車の設計を三谷さんが所属する技術企画課(以下、川重)が、実際の現場作業を井手が率いる西鉄テクノサービス改造チーム(以下、テクノ)が、そして鉄道事業本部車両課の山本がプロジェクト全体の調整役を務めています。

山本 「川重さんに設計をお願いしたのが2016年で、車両工事が始まったのが2018年6月。1月末の完成を目指して佳境に入っています。テクノさんにとっても初めての“観光列車づくり”ですが、感触はどうですか?」

井手 「私たちはふだん通勤車両の保守・点検・修理や簡単な改装を行なっているのですが、今回は前例のないチャレンジということで、事務所管理部門3名と現場部門の合わせて13名を主体として工事を進めています。内装と外装をすべて取り外し、構体骨組みの状態から造り直すという大規模改造工事だけに、想像以上の難業ですね。それでも車両製作エキスパートの川重さんがバックアップしてくださるので、実はあまり心配していませんでしたが…」

三谷 「私も観光列車に関わるのは初めてなので、今回は学ぶところも多いですよ。こうした3社体制での車両製作は、コミュニケーションが非常に重要であり、現在、非常にうまく進んでいると思います。私は(母体工場がある)神戸市から、毎月数回筑紫工場に通っているのですが、西鉄さんの思い入れや仕事の取り組み方に感銘を受けています。」

井手 「設備は最新のものに入れ替えますが、ベースとなっている6050形の外観のデザインは、やや古めで、どこかレトロな表情をしているのが気に入っていて、その雰囲気が残るのがうれしいですね」

山本 「新規車両を造る話もありましたが、車両をゼロから造るとなると、やはりお金もかかる。改造にすることで、そのお金は内装に充てたほうがいいのではないかと思いました。既存車両でも乗り心地をよくするために、ダンパー(衝撃軽減装置)をつけることも検証しましたが、結果的には不要でした。改造にすることで内装にお金をかけられたので、沿線である筑後の良いものをふんだんに使うことができました。まさに、「地域を味わえる」という特別な列車になるんじゃないかな」

三谷 「他社の観光列車と比べても、「 THE RAIL KITCHEN CHIKUGO 」の作り込みや技術の高さは素晴らしく、設計技師としてやりがいのある仕事です。」

関わった人々の情熱を、最大限に生かしたい

すべてが初めてづくしとあって、工事現場では日々トラブルが頻発。テクノのスタッフは川重さんと協力し、それらを1つずつ手探りで解決しています。具体的にはどんな苦労があったかというと・・・。

井手 「扉を埋めるなどの溶接箇所が多かったことは苦労しましたね。溶接の熱で車両の外板がひずまないよう、作業はとても慎重に進める必要があり神経を使いました。従来の西鉄電車になかったキッチンやトイレなど水回りの設置は初挑戦ですし、設備変更にともない1000本以上あった配線をすべて入れ替えるときは、その数の多さに泣きました。備品取り付け用のネジ穴の位置が合わないこともありましたし、小さな課題をあげればキリがありません」

三谷 「作業が始まって分かることも多いので、発生した問題を受けて、随時図面を引き直し、現場をスムーズに保つのが私の役目です」

山本 「三谷さんと一緒に、職人さんのもとに出向いたことも何度かありました。“取り付けスペースが狭かったので、すみませんが仕様変更をお願いします!”って」

三谷 「設計に入る前から、この列車のプロデューサーであるトランジットジェネラルオフィス(以下、TGO)さんや、内装をデザインしたランドスケーププロダクツさんともやりとりを重ねています。細部まで妥協せずに取り組むみなさんなので、設計の際はかなり議論しました。私たちもなるべくそれに応えたいけれど、どうしても無理なときは着地点を探さないといけない。その辺は山本さんがうまく折衝してくださって助かりました。関係者全員が“こうすればこの列車はもっと良くなる!”との想いから意見を出されるので、その調整は大変でしょう?」

山本 「はい(笑)。皆さんの意気込みに打たれ、希望は全部かなえたくなります。一番思い出に残っているのは、天井装飾に使う八女産の竹を使った竹編み生地ですね」

三谷 「私もです。列車に搭載するものはすべて不燃性の実証試験が義務づけられています。その編んだ竹も不燃化する必要があるんですね。竹自体が不燃でないため、竹を不燃化させるために非常に特殊な加工を何度も試み、大変苦慮しました。」

山本 「このままではデザイナーや職人さんの努力がムダになる。でも納期が迫っているから、駄目なら素材の代替案を出してもらわなきゃ……と悩んでいたところ、三谷さんの上司の方が新潟県の有沢製作所さんを紹介してくださって。そこで竹の風合いを残した特殊加工を施してもらい、パスできたんです」

三谷 「合格を聞いて泣いてましたよね、山本さんたち。この列車には多くの人の気持ちが詰まっているんだと、改めて実感しました」

竹編み生地のことを振り返る3名の言葉には、自然と隠しようのない熱がこもります。各分野のプロが力を結集して造りあげる「 THE RAIL KITCHEN CHIKUGO 」ならではのエピソードではないでしょうか。

訪問時は60%ほどの完成度。まだあちこちに配線や機器類が見られ、臨場感のある現場。

内装・外装が撤去されたベース車両。「私たちも初めて見る部品や構造が多く、勉強になります」(井手)

この列車が導いてくれた素敵な出会い

「 THE RAIL KITCHEN CHIKUGO 」には、竹編み生地の他にも、城島の瓦、大川の家具、福岡出身の鹿児島睦氏による筑後川を描いたTINパネルなど、筑後の“地域資源”がふんだんに使われているのが見どころのひとつです。

車内の壁面に取り付けられた城島町「渋田瓦工場」の城島瓦。いぶし銀の光沢が美しい。

井手 「観光列車の工事は、普通の工事とは違うところにも気を配らなければなりません。内装板や天井板の合わせ目など、普通の列車ならバラつきがあって当然の箇所も、今回は精度を高めて等間隔に処理しました。そうした試行錯誤を通じて、会社の未来に継承できる技術を得られたのは大きな収穫ですね。スタッフたちも改造の面白さに気づいたのか、いつもより生き生きしていますし(笑)」

山本 「私もこのプロジェクトに関われて光栄でした。よく思い出すのは工事に入る前、城島や大川などの職人さんに協力をお願いして回ったこと。難易度の高い依頼で納期も厳しいのに、どなたも“西鉄さんのためなら何とかします!”と快諾してくださるんです。このような列車を造るという企画のおかげで、普通なら出会えない素敵な方々とご縁を結べたのが非常にありがたく、うれしかったですね」

三谷 「列車そのものも細部まで丁寧に造られており、改造車両なのに新車の風格があります。個人的に注目ポイントは、城島の瓦をボウル状に焼いた洗面台。あれは見事な職人技ですよ」

山本 「瓦といえばTGOさんの意向で、お客さまからは見えないシートの下にも瓦を取り付けています。一度は省こうとしたのですが、やはり後から元に戻してもらいました。人々の想いがたっぷり詰まった列車だからこそ、見えない部分のこだわりも大事なんだ──そう思ったのです」

井手 「乗車されるお客さまにも、空間とあわせてつくってくださった職人さんの思いを、存分に楽しんでいただきたいですね」

振り返れば話は尽きませんが、かくして筑紫工場では、現在も絶妙なチームワークで車両製作が進んでいます。およそ3年にわたり、多くの創意や努力が注がれた地域を味わう旅列車「 THE RAIL KITCHEN CHIKUGO 」。その全貌が明らかになるまであとわずかです。どうぞお楽しみに。

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