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2019.4.19

天然素材を慈しむ大川の家具メーカーが観光列車の「ピザプレート」に込めた想い

ヒト

「天然素材の手触りを大切にした、シンプルでナチュラルな木の家具をつくろう」──それが、広松木工を営む廣松嘉明さんが長年守り続ける揺るぎないポリシーです。先代社長が“家具のまち”大川市に同社を興したのが昭和25年。当時は木製机を主に手がけるメーカーでしたが、35年ほど前に廣松さんが代表取締役に就任すると、会社の針路は大きく転換します。特定ジャンルの製品を作る会社が多い大川市にあって、多種多様な家具を総合的に扱うこと。大量生産品ではなく、職人の手技が生きた家具を柱に据えること。自前のショップを構え、消費者のニーズや反応を直につかむこと……等々。このような取り組みは、それ以前の大川市では見られないものでした。

THE RAIL KITCHEN CHIKUGOでは、そんなクラフト感あふれる広松木工の製品をぜひ使いたいと、メインディッシュ「旬野菜のピザ」を載せる木製プレートの制作を依頼しました。今回は大川市に廣松さんとスタッフの藤野さんを訪ね、木の家具へ込めた想いや、プレート製作にまつわるエピソードなどを語っていただきました。

明るく真っ直ぐな人柄が印象的な代表取締役の廣松嘉明さん(写真右)。各地でのワークショップやイベント開催にも熱心だ。

「シェーカー・スタイル」に込めたシンプルな家具づくりの理念

広松木工にターニングポイントが訪れたのは、廣松さんが3代目の社長就任後にミラノで開催された家具展示会です。モダンなプラスチック家具が目立つ中、廣松さんは、古いけれど味わいや存在感が際立つ家具たちと出合いました。「やっぱり良い家具は長く残るものなんだ……という思いで一杯になり、それが僕には衝撃でした。あの頃時代の流れに乗っていたら、広松木工は安価な大量生産品を効率よく作る会社になっていたでしょう。でもミラノであの家具を見た時、自分も素材・デザイン・技術がしっかりした家具を作ろうと決めました。製品はコンパクトでも、インパクトのあるものにするぞ、って」

帰国後、廣松さんは「シェーカー・スタイル」という経営方針を掲げます。これは200年以上も質素で無駄を省いた暮らしを送る、アメリカのシェーカー教徒の生活文化を再現しようというもの。その理念は、無垢材の温かみが生きた、シンプルで機能的な家具にくっきり刻まれています。「こういう家具はメンテナンスすれば何十年も使えるので、社員には“売って終わりじゃない。使われてからお客さまとのお付き合いが始まるんだ”とよく言い聞かせます。私も会社がある限り、このスタイルを貫くつもりです」

原点回帰の良さに遊び心も加えた同社の家具は、次第に注目を集めていきます。その成果のひとつとして、ギフトショーに出品した製品が認められ、イギリスの著名百貨店〈ハロッズ〉の棚を飾ったこともありました。「どの製品にも思い入れがあって、なかなか廃盤にできないからカタログは分厚くなる一方(笑)。あれはもうウチの家族写真集みたいなものですね」ノスタルジックな家具が満載のカタログは、眺めているだけで心がほっこりする仕上がり。わざわざショップで買い求めるファンもいるそうです。

本社内には、木の香り漂うファクトリーショップ「大川本店」を開設。福岡市の「博多店」(博多リバレイン内)でも製品の一部を見ることができる。若いスタッフの比率が高い本社工場では、同社の理念に共感して県外から来た職人も多いという。

異業種とのコラボレーションで新たな切り口を見つけたい

職人が手作業で仕上げる家具の魅力を尋ねると、廣松さんは「柄も形も微妙に不揃いなところ」と答えてくれました。「大量生産品に求められるものとは真逆ですが、それでも職人が気持ちを込めて作ると、そこに温かみが生まれてお客さまを幸せにしてくれる。不思議だけど、そうやって出来た家具には言葉で表せない“何か”が宿るんですよね」

限りある資源=木材への慈しみも忘れません。生産過程で出る端切れは、球体状に削って「ソノビーンズ」の名前で商品化。インテリアやアクセサリーなどに使えるアイテムとして人気を博しています。また、これを削る際に出る木の粉は粘土に加工し、これを使ったワークショップも開いているそうです。「二酸化炭素を酸素にしてくれる木を、僕らは家具の材料として利用し、残った廃材は燃やして二酸化炭素にしてしまう。それってなんか変な話だと昔から思っていて。でもこうすればちゃんと人の役に立つし、何世紀も生きてきた素材だから、製品そのものにもパワーがあるんです」

紙やすりを付けた研磨機に入れて作った「ソノビーンズ」。用途は手に取った人それぞれのアイディアで多様。好みのオイルをかければアロマディフューザーにもなる。

家具づくりの際には、必ず「視点」を意識するそうです。スタンダードな家具でも、一歩引いて眺めると新たな切り口が見え、新しいチャレンジができるのだとか。だからこそ「そのきっかけが作りやすい異業種とのコラボレーションは大歓迎」と廣松さん。その一例が、2017年に大川市が発表して話題を呼んだ猫専用の家具「ネコ家具」です。行政からの誘いを受けて、製作に協力した2社のうち1社が広松木工でした。「ネコ家具の時のように、まだ僕らが気づいてない家具の用途は多いはずだから、こういう話をいただくのはありがたいですね」そんなコラボによる最新作が、『THE RAIL KITCHEN CHIKUGO』のピザプレートなのです。

左が2人前のピザを乗せるプレート、真ん中は1人前のハーフサイズ用だ。ヒノキで作った「日本酒飲み比べセット」(写真右)のトレイも同社の作品だ。

ピザプレートの縁を 熱湯で柔らかくしているところ。均等に高さを出しながら、手作業で丹念に組み付けていく。

技術とアイデアを注ぎ込み美しく使いやすいプレートが完成

広松木工と打ち合わせを行い、図面ができたのは2018年3月のこと。使いこむほど色に深みが出るチェリー材の皿に、いくつものアイデアを投じて洗練させていったそうです。「まず始めに決まったのは、狭いテーブルを有効活用するために脚を付けること。当初は箱型の脚でしたが、何度か形状を見直して軽量化を図っています」

ピザが滑り落ちないよう、縁を付けることを提案したのも廣松さん。これは熱湯煮沸で柔らかくした細い板を、曲げわっぱの要領で外周に貼ったもので、もちろん手作業で慎重に行われました。そして、廣松さんを一番悩ませたのが表面加工だったと言います。「ピザを載せるとなるとシミや汚れが目立たないようにしたい。でも、天然無垢の良さも伝わるようにできないか、という話になりました。そこで手触りを損なわない、ギリギリの薄さでウレタンを塗ることにしました。当社史上もっとも薄い塗膜を作るため、何回も調合を試しました。ちなみにウレタンの材料は、口に入っても無害なものを選んでいます」こうしておよそ1年を費やし、自然な風合いでピザを引き立てる木製プレートが完成しました。

広松木工の窓口として、THE RAIL KITCHEN CHIKUGOとの共同作業を取りまとめた「大川本店」店長の藤野龍也さん。

「観光列車とのコラボなんて珍しいケースだから、僕らにも面白い経験になりました」と廣松さんは振り返ります。「観光列車にウチの製品が使われることも、木の良さを広める上で良いことですよね。天然で手作りのものは柔らかくて温かく、人を癒す力がありますから。また1つ1つ異なる木目の表情を、イレギュラーではなく個性や魅力として愛してほしいですね。それをきちんと伝えていくことも、僕ら家具メーカーの大事な役割だと思っています」

460年以上の歴史を持つ大川家具。そのなかでも独自の理念に従い、我が道をゆく広松木工はきわめてユニークな存在です。でも、だからこそクラフトマン精神に満ちた同社が、これからどんな活躍を見せるのか楽しみです。『THE RAIL KITCHEN CHIKUGO』にご乗車の際は、ぜひ食後のピザプレートを手にとって、廣松さんが込めた想いをご確認ください。

[INFORMATION]
■FACTORY SHOP HIROMATSU 「大川本店」
住所:大川市大字鬼古賀174-1(MAP
電話番号:0944-87-5911
営業時間:月-金 13:00~18:00/土日祝 10:00~18:00
休み:火曜日

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