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2020.2.3

うきは発。『日月窯』の若き陶芸家が挑むのは、 伝統と斬新が交錯する二刀流の作陶

ヒト

江戸時代に豊後街道の宿場として栄えた、福岡県うきは市吉井町。白壁や土蔵造りの建物が残る町並みに溶け込むように、雑貨店や骨董屋、古民家カフェなどが軒を連ね観光客を楽しませています。そんな吉井の町を見下ろす耳納連山の中腹に窯を構えるのが、福村元宏さんと息子の龍太さんが作陶をおこなっている『日月窯』です。九州には、小石原焼や有田焼など多くの伝統的な陶磁器がありますが、ここで作陶をされている福村龍太さんの作風は、他とはひと味違っています。まるで金属のような独特の光をまとう質感と風合い。器に触れてみてはじめて、それが陶器だったのだと驚かされます。若干30歳の若き陶芸家が生み出す、豪快でいて繊細な色彩の器たちは、日本のみならず世界各国の陶芸ファンの注目を集めています。

日月窯 福村 龍太さん
1989年生まれ。福岡県うきは市吉井町在住。「日月窯」の二代目陶芸家として作陶。福岡・東京のギャラリーを中心に、全国で個展を開催。2015年から毎年1か月間、アメリカ NYでも作陶をおこなっている。

葛藤の中から辿り着いた、自分の気持ちに正直な器

うきはの町並みを一望できるこの地に、お父さまの元宏さんが窯を開いたのが今から30年ほど前のこと。山々に囲まれたうきはの自然に魅せられ、もとはみかん畑だった土地を開墾し、自らの手で窯を作り上げられたそうです。陶芸家の父親の背中をみて、龍太さんは自分も同じ道に進むことを学生の頃から意識していたといいます。
しかし大学を卒業し、陶芸家としての活動をスタートしてすぐにこの世界の厳しさに直面します。「初めの2~3年は陶芸だけでは食べていけず、夜は居酒屋で仕事をしながらろくろを回す日々が続きました。どうしても父の作風に影響されてしまうので、自分は何がつくりたいのかを常に模索していました」。そんな龍太さんに転機が訪れたのが、アメリカでの作陶でした。
「現地のアーティストさんが、ルールにとらわれることなく思いのままに手を動かして、作陶を心から楽しんでいたんです。その姿を見て、自分の中でガチガチに固まっていた物作りに対するルールが消えました。もっと自由に自分の世界観を出していいんだと」。自分の気持ちに正直に、人とは違う視点で表現することで、現在の龍太さんの作風が確立されていきました。

錆のような金属的な質感と、艶やかに輝く銀彩がひときわ目を引くコーヒーカップ。それとは対照的に温かみのある粉引きの白い器もあり、幅広い作品が並ぶ。

使うほどに表情が変わっていく、金彩プレート

地域を味わう旅列車『THE RAIL KITCHEN CHIKUGO』では、ピザを木のオーバルプレートに盛り付けます。肉のプレートや野菜のプレートには違う素材を使いたいと考え、筑後地区の作家さんや産地をくまなく巡り、出会ったのが龍太さんの作る金属質の陶器でした。
「はじめ話を伺った時はびっくりしましたが、選んでもらったことが率直に嬉しかったですね。ピザの丸い器と並べて映えるよう、角のあるお皿にしてもらいたいということと、金属のような質感をだしてもらいたいというオーダーをいただき試作を開始しました」と龍太さん。プレートの質感から、フチの広がりやエッジ、重ねた時の収まり具合など細かな部分を何度も修正しながらできあがったのが、アンティークの鉄器のような金彩の角皿です。マットな黒と、控えめな光を放つゴールドの色彩のバランスは、器に塗られた釉薬のなせる技。鉄や銅、マンガンなどの鉱物を混ぜた釉薬によって、金属のような質感が生まれます。「使い初めはゴールドが強いですが、釉薬が油分と混ざることで、次第に色が黒っぽいマットな表情に変化していくんです」と龍太さん。使うほどに落ち着いた質感に変わっていく姿に、器を育てる楽しみを感じられます。角皿のフチには、揺れる車内でも料理が滑らないように緩やかな傾斜がついていて、お皿を重ねたときにも滑り落ちないようになっています。
お皿の底とフチ、それぞれ5つのパーツを別々に作り、ひとつひとつ手作業で貼り合わせて成形していく「たたら」と呼ばれる技法で作られているのも大きな特徴です。「角皿は石膏型に流して作ることが多いのですが、それだとどうしても機械的になってしまってつまらない。“たたら”は、手間はかかりますが、人の手が作ったいびつさがやわらかな印象を与えてくれるし、ひとつとして同じ物はできないという面白さもあります」。さらに、釉薬を刷毛で厚めに塗って皺をだすことで、ひと皿ひと皿に表情が加わります。

すべて手作業でおこなうため、1日に成形できるお皿は5~6枚が限度。納品完了まで丸1年かけて作陶していただきました

料理をより華やかに引き立ててくれる、シンプルな風合い。フチの絶妙な立ち上がりの角度と、ちょっとゆがみのある直線が、やさしく温かみのある印象を与えてくれます。

登り窯でしかつくり出せない、偶然が彩る景色

今は電気釜があれば陶芸は可能な時代ですが、龍太さんのつくる器のほとんどは、昔ながらの登り窯で焚かれています。「登り窯で焚くと1~2割は必ず失敗作がでてしまいます。けど、登り窯じゃないと出せない表情があるんです。特に“焼き締め”といって、釉薬ではなく、炎と薪の灰で器に景色をのせていく焼き方には薪の力が不可欠なんです」。生きた炎や灰の偶然の動きによって、思いもよらなかった味わいが現れることも。『日月窯』のギャラリーには、登り窯を使った「灰かぶり」と呼ばれる伝統的な焼き締めの陶器と、現代的な金属質の陶器が並んでいます。テイストの全く違うふたつの作風を併せ持っているところが、龍太さんの強みでもあります。
「自分の好きなスタイルで自由に、本当に自分が良いと思ったことをやっていきたい。これからもいろいろなことに挑戦し続けていきたいですね」と龍太さん。列車のオリジナルプレートもそんな挑戦のひとつです。ご自身が作られたプレートとともに、『THE RAIL KITCHEN CHIKUGO』でどんな時間を過ごしてもらいたいかを最後に伺ってみました。
「こういう金属質の陶器って九州ではなかなか見ないものなので、器も一緒に楽しんでもらいたいです。僕も天神に行くときに西鉄電車を利用していますが、食事をしながら見る景色は、きっとすごく新鮮で、いつもと見え方が違うんじゃないかと思うんです。筑後の食材と器、筑後の風景を、多くの方に満喫していただきたいです」

今回のプレートは、お父さまの元宏さんとふたりで作陶していただきました。

『日月窯』1Fのギャラリーには、元宏さんと龍太さんの作品がずらり。普段使いの器から芸術的な要素の強い重厚感のある花器まで、いろいろな表情の陶器に出会えます。

2Fは筑後平野を一望できるカフェ。『日月窯』の陶器とコーヒー、筑後の食材や果物を使ったスイーツでゆっくりとした時間を過ごせます。

2階のカフェのカウンターに座り、うきはの町並みを眺めながらコーヒーを飲むことから龍太さんの作陶の一日が始まるそうです。
土日になると、たくさんのお客さんが訪れる『日月窯』のカフェ。眼下に広がるのどかな景色と、フルーツたっぷりの手作りスイーツ、そして、龍太さんの作ったコーヒーカップで飲むコーヒー。ゆったりとした時間の流れを感じながら、豊かなひとときが過ごせるに違いありません。

[INFORMATION]
■日月窯
住所:うきは市吉井町富永404-4(MAP)
電話番号:0943-76-3553
営業時間:12:00~17:00
休み:水曜日

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