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2018.11.1

城島瓦の可能性を突き抜けて 新たな価値を生み出した“いぶし銀”の挑戦!

ヒト

酒どころとして有名な久留米の城島では、街角のいたるところで大きな鬼瓦が睨みをきかせています。実はこの地域、全国でも名高い瓦の名産地でもあります。筑後川周辺の上質な粘土を使い焼き上げた瓦は、にぶく光る「いぶし銀」と呼ばれる独特の色合いが特徴。有馬藩のお殿様も大層お気に入りだったと言われ、魔除けの鬼瓦や敷き瓦としても使われています。

そんな城島瓦を作り続ける渋田良一さんの工房で行われた新たな挑戦。それは瓦づくりの歴史をくつがえすような難問だったとか。

渋田瓦工場の渋田さん、渋田さんとタッグを組んで開発に携わった福岡県工業技術センターの阪本尚孝さんにお話をお聞きしました。

水分を吸って放つ、呼吸する城島瓦は
筑後の風景に欠かせない名バイプレーヤー

城島瓦は、江戸時代に有馬藩主が、当時の文化の中心地であった京都や兵庫から職人を呼び寄せて開発したのが始まりと伝えられています。台風が多い九州だけに、重ねる面積が深く、独特のカーブを描くフォルムが特徴的。地肌は雨を適度に吸ってはその水分を蒸散させる「呼吸する瓦」としても筑後地方の人々の暮らしを守ってきました。

城島瓦最大の特徴といえば、その色。1000度の熱で焼き上げた後に少し低い温度で燻すことで、表面に結晶の皮膜ができ、それがまるで金属のような、それでいて焼き物の温かみも感じさせる銀色、通称「いぶし銀」となるのです。渋田さん曰く「新しい塗料は次々と開発されていますが、この色はなかなか出せないと言われています。主役として目立つ色ではないけれど、深みがあって見飽きない色とお客さまにもお誉めいただいているんですよ」

そんな城島瓦を作り続ける「渋田瓦工場」の3代目を継いだ渋田さんの前代未聞の挑戦は、久留米市から「西鉄が観光列車の内装に瓦を使いたいと言っている」と連絡がきたことから始まりました。

チャレンジングな3代目と技術者の二人三脚で開発
薄型瓦素材の研究が生み出した新型タイル

もともと渋田さんは、3代目を継いだ後、従来の瓦だけではなく、敷瓦や花器など、さまざまな商品開発に取り組まれてきた方。しかしながら、列車に瓦を使うという試みは、渋田さんでも始めてのことばかりでした。まず列車に使う瓦は、車両が重くなりすぎないよう薄くなければなりません。それに薄くても、動く列車の振動にも耐えられる耐久性が求められます。しかも、デザインに描かれた瓦の色や形は、従来の瓦とは異なるもの・・・。

「私個人で手がけるとしてはあまりにも大変です。これは業界全体のご協力を得なければならないと思い、以前から一緒に開発を進めてきた福岡県工業技術センターの阪本さんのお力をお借りしました」

実は、阪本さんと渋田さんは、数年前から瓦の将来性を考えて一緒に薄い瓦の研究を続けてきたそう。まずはその研究の成果も踏まえながら試行錯誤の日々が始まりました。「瓦の基本は同じものを同じ形と色で大量に作れるかどうかがカギになるのですが、今回は、色はバラバラで形も平坦な長方形、しかも薄さは約1cm。言ってみれば瓦とはまるきり違うモノなんです。薄い瓦の研究をしていなければ、おそらく開発は間に合わなかったでしょうね」

「異素材とのコラボも楽しみ!」
瓦タイルが生み出す新しい風景にご期待を

いぶし銀に色をつけるのは、城島の瓦職人としてはタブー。そんな瓦職人としてのタブーを乗り越えて生まれたのが、炭素量をコントロールしたいぶし銀のグラデーション3色と、少し遊んで素焼きで仕上げた赤茶の2色、合計5色のタイルです。阪本さんによると「色を変えるといっても、釉薬で不自然な色にはしたくなかったんです。大量に仕上げるには品質管理も心配ですし。そこで、着色をせず工程を変えて差をつけました。この素焼きのタイルなんて、水を吸っちゃうから瓦として使うのは難しいんですよ」

薄いタイルの整形は職人の腕の見せ所です。「約3000枚のタイルは鬼瓦職人の市川さんが一枚一枚手切りしてくれました。粘土の性質を見極めて、断面を正確にまっすぐ切るのは至難の業なんです」と渋田さんが見どころを教えてくれました。

職人の技術と経験でタブーに挑戦した二人。開発までの苦労も多かったものの、やはり完成後の姿が気になる様子。「瓦はもともと山の粘土をブレンドしてできた自然の土なので、その風合いを大切にしています。車内には他の地域の素材も使っていらっしゃいますよね。その組み合わせが見た人にどう響くのか楽しみです。それに瓦の新しい商品づくりのきっかけにもなりそうなので、西鉄さんには本当に感謝しています」と渋田さんも満足そう。

渋田さんと阪本さんは、今後も継続して薄い瓦の研究を続けていくとのこと。すでに渋田さんの工房の壁面や内装材にも使われています。さらに、鬼瓦の細工技術を使った植木鉢なども徐々に注目を集めています。
瓦生まれの新製品がどのような景色を生みだすのか。“いぶし銀”の実力に注目が集まりそうです。

[INFORMATION]
■渋田瓦工場
住所:久留米市城島町楢津910-3
電話番号:0942-62-3324
時間:10:00~18:00
休み:不定

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