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2019.2.15

「きのこ」と「循環型社会」の里、大木町にウーマンパワーを吹き込んだ、松藤さんの挑戦

ヒト

持ち前の行動力と発想力で大木町を盛り立ててきた松藤富士子さん。一級建築士や大型特殊免許などの資格もお持ちという勉強家の一面も。

人口およそ1万4000人、面積18k㎡ほどの三潴郡大木町。全域が筑後平野に属し、広々とした空と大地に包まれた風景が印象的です。土地のほとんどを占める田畑を囲むように、至るところにクリーク(堀)が見られるのも町の特徴。縦横無尽に走る水面には四季折々の美が映りこみ、独特の風情を楽しませてくれます。このクリークは、かつて沼地であった土地を先人が整備した名残りであり、現在も農家に多大な貢献を果たしています。そんな豊かな水源と温暖な気候に恵まれた大木町は、西日本屈指の生産量を誇るキノコ類の産地でもあります。

注目すべきはそれだけではありません。大木町は長年の「循環型社会」への取り組みが実を結び、全国の自治体から熱い視線が寄せられる著名な存在。リサイクル事業の成功によって福祉などの環境が充実し、若い世代の人口も年々増えているのだとか。いったいどんな力が働いて、この穏やかな農業の町に活気を与えているのでしょう。農業法人や『道の駅おおき』などで要職を務め、日々地域活性にいそしむ松藤富士子さんにお話をうかがいました。

複雑な迷路のように町内を走るクリーク。面積の約14%を占める町のシンボル的存在で、一年を通じて風景にみずみずしさを与えています。

松藤富士子さん
熊本県・南関町出身。建築会社に在籍中、柳川市の農業者と結婚。それを機に農業の勉強を始める。1999年、大木町からの要請に応じて、女性だけの農業法人『モアハウス』の理事に就任。2010年には『道の駅 おおき』内に農家レストラン『デリ&ビュッフェくるるん』をオープンし、好評を博す。昨年からは地域創業・交流支援センター『WAKKA』センター長に就任。各地の講演会でも講師を務めるなど、大木町のために幅広く活動している。

─松藤さんは熊本の出身ということですが、どのような経緯で大木町と接点ができたのですか?

昔から“ものづくり”が好きで、最初は建築の仕事に関わっていました。一級建築士の資格も取りましたが、縁あって柳川市の農家の男性と結婚することになったんです。せっかく資格をとったのにと、両親は大反対でしたけど、初めて出合う農業の世界は面白かったですね。何より命に直結するものを生み出すわけだから、これほど意味のある“ものづくり”はありません。その後も農業を学びながら大型特殊免許などの資格を取ったりしましたが、私が38歳の時に主人が他界し、いったん実家に戻りました。翌年の1999年、たまたまJA福岡県大会で私のスピーチを聞いていた大木町関係者の方が、“女性だけの農業法人『モアハウス』を経営をしてみませんか”と誘ってくださったんです。“女性や若者の活躍なくして町の未来はない”という考えから発足した法人だったそうです。

昨年4月より新施設『WAKKA』のセンター長も務める松藤さん。「WAKKAは加工商品の試作やキッチンスペースでのイベントなど、町民が幅広く使えるラボ的な空間です。どんな化学反応が生まれるのか、私も今から楽しみです」

─それまで大木町のことはご存知でしたか?

ほとんど知らないまちでした。でも何度か視察するうち、ここには新しい農村の形があると気づいたんですね。町民の方は農業をとても大事にされているし、面白いことにチャレンジできそうな風土もあって、町ぐるみで取り組む循環型のまちづくりにも興味を引かれました。私も40歳までに一生の仕事を見つけたかったので、やってみようと決心したんです。『モアハウス』のメイン事業はブナシメジ生産で、私以外のメンバーは地元農家のお嫁さんばかりだったけれど、周囲の手厚いバックアップのおかげで経営は順調でした。

大木町ではブナシメジやエノキ茸など、一年を通じて10種類前後のキノコ類を出荷しています。昔は米・麦とともに、い草が主な農産物でしたが、需要の減少を受けてきのこを栽培したところ、これが大当たりして軌道に乗ったそうです。今では菌茸類が大黒柱ということで、この規模の自治体には珍しく、種菌センターを独自に所有し、常に新品種の開発にトライしています。2年前にはオリジナルの品種『王リンギ』がデビューしました。嬉しいことに『THE RAIL KITCHEN CHIKUGO』の食材に採用していただきました。まだまだ生産量の少ないキノコですが、凝縮した旨味とプリプリコリコリした歯ざわりが絶品なんですよ!

─『THE RAIL KITCHEN CHIKUGO』では、大木町産のアスパラガスも使う予定です。

実はアスパラガスの栽培を町広めようと推進したのたはきのこ生産者のメンバーです。キノコの栽培後には廃棄処分される菌床が大量に出るのですが、これには、おがくず・米ぬか・トウモロコシの殻など自然由来のものばかりが含まれています。土に混ぜると良質な堆肥になるので、何かに再利用できないかとずっと考えていました。そこでひらめいたのが、前に柳川市で作っていたアスパラガス。これなら堆肥はいくらでもあるし、設備投資は少額で済むし、タフな野菜なので水や肥料を少々間違えても育ちます。ちょうど新規就農希望の相談も増えていたところで、その受け入れ口にも最適でした。おかげさまでキノコと同じく、アスパラガスの生産量も福岡県でトップになりました。

─“もったいない精神”ですね。それとリンクして、大木町の「循環型社会」への取り組みについて教えてください。

この町には農業しかないから、身の丈に合った暮らしをしよう。子孫に迷惑をかけないためにも、今自分たちにできることをやろう……。そんな先先代の町長さんの呼びかけが、取り組みのきっかけだったと聞いています。状況が大きく動いたのは、町の中心部に『おおき循環センター くるるん』が完成した2006年でした。それまで焼却処理や海洋投棄していた有機物(生ゴミ・し尿・浄化槽汚泥)はこの施設に集められ、メタンガスに変わり、施設利用のエネルギー源として再利用されています。またその処理過程で残った消化液は有機液肥になり、町内の農家さんなら誰でも無料で使えます。結果的に『くるるん』は様々なコスト削減をもたらし、そのおかげで大木町は浮いたぶんの税金を育児・教育・高齢者福祉などにたっぷり還元できるわけです。真の意味で豊かな町になったためか、最近はここに住んで町外で働くという若い世代が目立ちます。教室が足りなくなるくらい児童の数も増えましたね。

いろんな自治体の方が視察にみえますが、他の地域ではこの仕組みを再現するには難しさもあるようです。大木町でこの循環型の取り組みが実現できたのは、<28種類におよぶゴミ分別を可能にする町民の協力体制><液肥を有効活用できる農業事情>という条件が揃っていたからなんですね。私はそんな町のありようが素晴らしいと感じ、循環センターの空き地に『道の駅 おおき』ができると聞いて、そこに地元食材を扱うレストランを出したいと思いました。ゴミ処理場の隣で食事なんてと反対はありましたが、料理の美味しさだけじゃなく、大木町が育んできた農業や自然、循環の大切さを感じてもらえる場にしたかったんです。私が代表となって2010年に開いた『デリ&ビュッフェくるるん』には、そんな想いがこもっています。

「循環の町」の中核施設『おおき循環センター くるるん』。各家庭から集めた生ゴミはここで液肥になり、安心・安全な米や野菜の栽培に利用されています。

─官民が互いに手を差し伸べあう、理想的な地方行政の形だと思います。最後に、あらためて『THE RAIL KITCHEN CHIKUGO』にはどんなことを期待されますか?

西鉄電車って生活に溶け込んだ身近な存在ですよね。その電車が観光列車になるんだから、普段とは違う楽しさがあると思うと、ワクワクします。観光列車に乗られて、大木町の王リンギや『アスパラガス』に興味を持たれた方に、“今度あの町に行ってみようか”なんて思ってもらえたら嬉しいですね。

観光列車で春の食材として使われる「王リンギ」。芳醇な香りとコリコリ食感の新感覚きのこは、炒めものやスープ、さまざまな料理で楽しめます。

終始ポジティブな空気で、こちらを笑顔にしてくれた松藤さん。大木町の元気な女性たちを代表するような、魅力的なリーダーでした。その松藤さんがオススメする、3つのスポットにも足を延ばしてみましょう。

心身を癒す大木町流のおもてなし。
松藤さんのイチオシスポットはここ!

道の駅 おおき

─やはり野菜が豊富な直売所での買い物が楽しみですね。

大木町生まれのきのこ『王リンギ』も販売しています。地元の女性がアスパラやキノコなどで作るジェラートのお店も面白いですよ。お子さま連れのご家族には『きのこもぎとり体験』が人気です。1月~5月上旬までは隣のハウスで『いちご狩り』もお楽しみいただけます。

─きのこのもぎ取り体験ができるのはユニークですね。

そうなんです。「きのこ」もぎとりギャラリー『モギリー』では、エリンギやしめじ、ヌメリスギタケという変わったきのこなど常時4?5種類のきのこのもぎ取り体験ができます。新鮮なきのこを味わっていただける大木町ならではの体験です。

─併設のレストラン「くるるん」は平日でも盛況ですね。

安全・安心な旬の地元食材をメインに、多彩な料理をビュッフェスタイルでご提供しています。お出しする食材の7割は大木町産を使っています。

ニコパン

─このパン屋さんの建物は味わいがありますね。

以前は銀行として使われていたもので、風格がありますよね。東京で修行されたご主人がこしらえる、“毎日食べても飽きないパン”も美味しいですよ。地元産の野菜を使ったキッシュが私のお気に入りです。

─店内の半分は雑貨・小物の販売スペース。どれもセンスが良くて、こちらも気になります。

東京で傘のデザイナーをされていた奥様のセレクトだそうです。意外なお土産が見つかる穴場スポットでもありますね。

アクアス

─天然温泉があるとは嬉しいですね。

町民の憩いの場ですが、もちろん観光客の方も大歓迎ですよ。毎分350リットルと湯量が豊富で泉質も良好。しかも温泉効果が高く、衛生的な“掛け流し”です。

[INFORMATION]

■道の駅 おおき
住所:福岡県三潴郡大木町横溝1331-1(MAP
電話番号:0944-75-2150
営業時間:『デリ&ビュッフェくるるん』11:00~14:00LO(ランチタイム)/18:00~21:00(ディナータイム要予約)
『くるるん夢市場』9:30~18:00(4~9月は18:30まで)
休み:『デリ&ビュッフェくるるん』毎月第1水曜日(祝日の場合翌日)。『くるるん夢市場』偶数月の第一水(祝日の場合翌日)

■ニコパン
住所:福岡県三潴郡大木町横溝82-1(MAP
電話番号:0944-78-1292
営業時間:10:00~18:00
休み:月(不定休あり)

■天然温泉 大木の湯アクアス
住所:福岡県三潴郡大木町八丁牟田538-1(MAP
電話番号:0944-33-2002
営業時間:10:00~22:00(プールは21:00まで)
休み:月(祝日の場合翌日)、年末年始

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