大牟田のまちに息づく勇壮なまつり。夏のはじまりにパワーを運ぶ「大蛇山」。
西鉄天神駅から特急で約1時間5分。夏最盛期を迎えるこの時期、大牟田のまちを歩くと、そこかしこからまつりの香りが漂います。山車を準備する人や鐘や太鼓を叩く音、商店街ではにぎやかな装飾にも力が入ります。およそ300年以上続く伝統の行事『大蛇山』に向けて、まち全体が準備を始めるのです。
大牟田市の無形民族文化財にも指定されている「大蛇山」は、三池地方の祇園社の祭礼に伴う行事で、寛永17(1640)年に三池祇園社が建てられ、江戸時代の前期から中期にかけて始まったとされます。6つの地域の神社「祇園六山」に奉納される大蛇山、高さ約5m、長さ約10m、重さ約3tの木製の山車をさし、お囃子が乗り込む山車の先に大蛇の首が据えられ、地域ごとに異なる大蛇の表情や作りこまれた装飾が特徴です。山車の引き手の数は、およそ200人から300人ほど。当日は各山の法被を着た男達が集まり、大牟田のまちを勇壮に練り歩きます。その後には髪をまとめあげた女性が続き、巧みな踊りとともにまつりを盛り上げます。
巡行前の大蛇は、「かませ」とよばれる神事も行われています。1年の無病息災を祈り、大蛇の口に“噛まれる”儀式です。噛まれた子どもは、泣けば泣くほどご利益があると伝えられており、男衆が幼い子どもを大蛇の口までかつぎ上げる様子に、ギャラリーからは歓声があがり、まちは和やかな空気に包まれます。
まちに笑顔をはこぶ大蛇山も、夕暮れを迎えると立ち姿が一変。5mほどの高さのある山車上に若衆が飛び乗り、ときに大きく大蛇の首を振りながらまちを練り歩きます。山車は封鎖された道路をダイナミックに巡行し、山車同士がすれ違いながら荒々しく「競演」。大蛇の口から火花が飛び散り、引き手たちの手持ち花火が空高く上がる瞬間は、山車はオレンジやピンクの火花で包まれ、沿道の人々は後ずさりするほどの迫力です。およそ2時間の巡行と競演。通りは鐘の音が鳴り響く中、炎の熱をすぐ近くに感じながら山車を見守る観客との不思議な一体感が生まれます。
2日間の巡行を無事終えた大蛇山は、その夜のうちに役割を終えます。「山くずし」の瞬間です。まつりの最後を見届けようと、神社の参道には大勢の人が詰めかける中、まず、引き手が大蛇の耳や牙を引き剥がします。大蛇の首がゆっくりと山車から離れると、首を引きずった引き手たちが境内に駆け出して行きます。境内がバッと明るくなり、大蛇の首が燃え上がると拍手がおこります。まつりの終わりを肌で感じる瞬間です。
大蛇山の一部分となったものは、役物(やくもつ)と呼ばれ、御神体の一部として大切にされてきました。もっともご利益があるとされているのは、大蛇の左目で、山くずし翌日に、「目玉送り」として役物を希望した人へ引き渡します。直径30cmほどの蛇の目玉が奉納される際も神事が執り行われ、木箱に収められた目玉は無事、神棚に鎮座します。目玉は商売繁盛や家内安全の縁起物として、また、新築や開店祝などの贈答品として贈られることもあります。大蛇山は市民の暮らしの中に息づく大事な行事ごととして、長く受け継がれているようです。
毎年7月下旬に開催される大牟田の夏の風物詩。夏の大蛇パワーを間近で感じに足を運んでみてはいかがでしょうか。
[INFORMATION]
■おおむた「大蛇山」まつり振興会事務所 <問い合わせ窓口>
住所:〒836-0843 大牟田市不知火町1-144-4(MAP) 大牟田観光プラザ内
電話:0944-56-1731
FAX:0944-52-2214
HP:http://www.omuta-daijayama.com/index.html