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2019.3.29

“家具のまち”大川の職人が技を持ち寄り観光列車とコラボレーション

ヒト

日本一の家具生産高を誇る、福岡県大川市。北東から南西に筑後川が流れるこの一帯は、かつて有明海へと至る交通の要衝でした。と同時に、ここは現・大分県日田市から届く木材の集積所であり、この地理的背景によって“家具のまち”としての礎が築かれました。460年余にわたって受け継がれる福岡ブランドの伝統産業「大川家具」。そんな大川の家具は、筑後の魅力をたっぷり詰め込んだ『THE RAIL KITCHEN CHIKUGO』でも見ることができます。

今回は、そんな大川市で、観光列車プロジェクトに尽力いただいた4名に製作過程の裏話を伺います。お相手は、テーブル担当の江口堅太郎さん(株式会社ワンズコーポレーション/代表取締役)、椅子とソファ担当の古川徹至さん(有限会社平田椅子製作所/常務)、別注家具担当の西英樹さん(有限会社大栄産業/取締役)、木材調達担当の佐藤元昭さん(株式会社 佐藤木材/代表取締役)です。

左から西英樹さん(大栄産業)、江口堅太郎さん(ワンズコーポレーション)、古川徹至さん(平田椅子製作所)、佐藤元昭さん(佐藤木材)。

─みなさん和気藹々とした雰囲気の良さが伝わってきます。どのようにチームが結成されたのですか?

西 普段の仕事でも一緒に組むことが多いメンバーなんです。一緒に飲んだり喧嘩もしたり、気心が知れている、チームというよりは仲間同士という感じです。

古川 大川家具は基本的に分業制なので、それぞれ担当も異なっています。工場で一貫して生産するのではなく、今回のプロジェクトみたいに、専門分野を持つ職人が集まって案件に取り組むことが多いから、このメンバーもいつもと同じ役割でチームになりました」。

─なるほど。家具職人が集まる大川ならではですね。その方が効率だけでなく、個々の品質も高くなるということでしょうね。今回気になったのが、佐藤さんがご担当される「材料調達」です。どのような役割なのでしょうか。

佐藤 家具の材料となる木材を仕入れ、メーカーや職人さんに卸す、材料卸しの専門です。扱うのはほとんどが広葉樹で、これは家具のまちの特徴でもありますね。全国的には一般住宅の建材であるスギやヒノキなどの針葉樹を扱う業者が多いのですが、大川では針葉樹の何十倍も種類が多く、いろんな木目や柄が選べる広葉樹が好まれるんです。ただ日本には広葉樹が少なく、どうしても輸入中心になるので、仕入れや視察のためによく海外にも出かけます。

佐藤さん(右)は家具製作に不可欠な存在。「うちの木材で造られた美しい家具を眺めるのが、この仕事の喜びです」

「佐藤木材」は国内外から仕入れた約50種類の木材を保有。適切な水分量になるまで数ヶ月は寝かせるという。

─今回の家具製作が、どのような流れで行われたのか教えてください。

西 まずインテリアデザインを担当するランドスケーププロダクツ(以下LSP)さんがデザインを描き、車両設計担当の川崎重工業さんがそれを反映させた図面を描かれました。それを私たちの方でも検討し、修正を加えた図面を引き直して“こんな仕様にしましょう”とご提案しました。何度かそのやりとりを繰り返し、最終図面が決まったところで各自製作をスタートしました。

江口 LSPさんと意見が一致するまで時間がかかりましたが、デザイナーさんのイメージを再現する作業には面白さもありましたよ。家具のプロである私たちの意見もかなり聞き入れてもらって、良い共同作業ができたと思います。

古川 当社では椅子20脚とソファ24脚を作りました。観光列車はお客さまの座る時間が長いので、肘掛の長さや背もたれの角度、クッション材など普段以上に快適性を大事にしました。

「平田椅子製作所」の工場。多くの製造機器が導入されているが、最後に品質を決めるのは熟練職人の勘所だ。

江口 私の担当はテーブルで、7種類くらいかな。面積的に目立つ部分なので、木目の流れを綺麗に揃えようと心がけました。力を入れたのはビュッフェ台の天板の処理。縁だけ残して天板全体を機械で削り、コップなどが落ちにくいよう段差をつけた後、削り跡を消すために手作業で磨きあげました。技術よりも根気が必要でしたね(笑)

佐藤 そのビュッフェ台には、世界三大銘木と言われるウォールナットが使われています。一般に流通する厚さの50mmを超えて、今回はほとんど流通しない厚さ70mmのものを使いたいということで、材料の調達には苦労しました。お客さまが車内を見渡した時ちぐはぐさを感じないよう、柄や色味が近い材料を揃えるのも難しかったですね。

西 私が手がけたのは棚やカウンター、オーディオラックなど別注家具7点。形状が複雑な“ややこしいヤツ”担当しています(笑)。どれも大型だから、一度工場でバラして車両内で組み立て直すという工程がありました。ご乗車の時、乗客の方に注目していただきたいのが丸いカーブを描いた収納扉です。木材を綺麗に曲げるのには、実はかなり技術が要るんです。

大栄産業の西さん。職人やそれぞれが仕上げた家具を取りまとめ、現場での取り付けなどを仕切る、いわば“ディレクター“的な役割も持つ。

─大川家具の技術が集結している、という感じですね。
他のみなさんも車両工場で取付作業を行われたそうですが、ご苦労はありましたか?

古川 ネジ穴の位置が図面と数ミリ違っていて、椅子が取り付けられませんでした。これはどうしても車両に歪みが出るからで、こういう工事では仕方ないことだそうです。それでネジ穴調整のため一旦持ち帰ろうとしましたが、やっぱりここでやった方が安全だと思い、2日間車両にカンヅメになって作業しました。

江口 古川さんの場合は椅子のデザインも3~4回変更がありましたね。私たちも工場に来て初めてわかる同様のトラブルがあったから、それに一つひとつ対応し、解決していくのが大変でした。

古川 それでも、こんなナマの現場を見られたのは良い経験になりました。普段はクライアントに頼まれた椅子を自社で造り、完成品を引き渡せばそれで終わりですが、これからは設計する上で“ここまでは攻められる”とか、“もっと現場スタッフが取り付けやすい形状にしよう”とか、より精度の高い仕事につながると思います。

─製作依頼から納品まで2年半。みなさんの“作品”を乗せた観光列車に思うことや、期待することはどんな点ですか?

江口 やっぱりこの列車の完成に貢献できたことは嬉しいですね。実際に大川家具に触れて、木の家具っていいな、自宅に一つ欲しいな……と感じていただける場所が増えたわけですから、参加した甲斐がありました.

建材輸入など貿易事業も行う江口さん。自称「機械マニア」で、工場には大川屈指の最先端機器が揃っている。

佐藤 天然素材の木工家具って触れば気持ちがいいし、模様も違うから同じものが二つとありません。人工資源の家具と違って、廃棄時の環境負荷が少なくて地球にも優しい。そんな木工家具に興味が湧いたら、次は大川市にも足を延ばして家具を見に来てほしいですね。最近はグルメや観光にも力を入れているので、きっと楽しんでいただけますよ。

西 いつか社員や家族を乗せてあげたいです。“これが俺たちのやった仕事だぞ!”って自慢したいです。

古川 最近はライフスタイルの変化などで、家具業界にちょっと元気がありません。観光列車という空間で大川家具の魅力を再発見していただき、それが少しでも大川を盛り上げる原動力になったら最高ですね。

木材の調達会社から家具をつくる職人まで、それぞれのエキスパートが集まって“ものづくり共同体”を形成する家具のまち大川。今回はなかなか聞くことのできない舞台裏のお話しを伺いました。関係各位の緊密な連携から生まれ、木材ならではの温かみをたたえる大川家具は、これからも長く継承されてほしい筑後の伝統文化の一つ。地域を味わう旅列車『THE RAIL KITCHEN CHIKUGO』という空間を通して、お客さまにに少しでもその魅力をお伝えできたらと思います。

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