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2019.12.6

仕上がりに一切の妥協なし、大牟田生まれの芳ばしナッツ。

ヒト

地域を味わう旅列車『THE RAIL KITCHEN CHIKUGO』で提供されている料理の美味しさを引き立てている名脇役が、大牟田市で栽培されている落花生。小さくカットして野菜やサラダに添えればカリカリッとリズミカルな食感を生みだし、丁寧にペーストしたソースをお肉にひとかけすれば、芳ばしい香りと濃厚なコクが口いっぱいに広がります。
そんな落花生の収穫が始まった秋のある日、生産者の冨重農園を訪ねました。

2年前に大牟田市に帰郷し、農業を始めた冨重さん。自身が納得できる落花生の味わいをとことん追求する、研究熱心な人柄です。

採れたての生落花生は、至福の味わい

有明海の東岸、三池山を望む三池干拓地は農業が盛んにおこなわれている地域。大牟田市昭和開の干拓地にある冨重さんの畑では、落花生を中心にじゃがいもや里芋などが栽培されています。
「来週、収穫はじめますから」。冨重さんのそんな電話とともに、急遽決まった今回の訪問。実は、落花生にとって湿気は大敵。豆の成熟具合と天気予報を交互に確認しながら、晴れが長く続くと予想される日に狙いを定め、タイミングを見計らって収穫を開始するそうなのです。「先週はまだ豆が白かったけんね。今週は晴れが続くし、今日がベストなタイミングやね」
収穫は、機械と人の手を使って丁寧におこなわれていきます。まずは、落花生の葉を刈り取った後、機械で畑の土をひっくり返しながら、地中でたわわに実った落花生を掘り起こす。その後、手作業で畑の上に落花生を広げて1週間ほど乾燥させたら、山積にして落花生がカラカラになるまでさらに天日干しをしていきます。

トラクターで土をかき混ぜると、土の中から落花生が次々と掘り起こされていきます。

掘り出した落花生は、手作業で一株ずつひっくり返してそのまま乾燥させます。

「乾燥させた落花生もいいけど、私が一番美味しいと思うのは、採れたての生豆。これ、食べてみらんですか」。渡されたのは、まだ土のついた白い落花生。ふたつに割ってみると、うっすらとピンクがかった艶っぽい豆が顔を出します。え?生で食べられるの?と驚きながら口に入れてみると、シャキシャキッとした歯ごたえと瑞々しくほんのり優しい甘みが広がります。その美味しさは、今まで味わったことのある落花生とは全くの別物。「この採れたてを塩茹でにして、ビールのつまみにするのが一番うまかですよ」と顔をほころばせながら話してくださいました。採れたての生豆は日持ちしないため収穫作業と並行して出荷することが難しく、生落花生は生産者だけに与えられた特別なご褒美なのだそうです。

採れたての生豆を、3%の食塩水で約40分間茹でて「茹で豆」にするのが、冨重さんのおすすめ。

作るなら、自分の納得のいく方法で

冨重さんが本格的に落花生づくりを始めたのは、2年前。それまで農業に携わる仕事をされていた冨重さんは、定年退職をきっかけに約40年ぶりに故郷の大牟田市へと戻り、高齢の母に代わって実家の畑を引き継ぎました。さて、何を作ろうかと思った時に、まず思いついたのが落花生だったそう。「昔から落花生が好きやったけんね。農業をするなら、これは外せんなと思っとったんですよ」。そうと決まれば、これまでの仕事で培ってきた農業の知識をフル活用しながら、落花生の栽培方法をあれこれと模索する日々が続きます。
まずは、土作り。畑の土は山から運んできた客土で粘土質が強いため、どうしてもカチカチと固くなってしまい、落花生にとって最適と言えるものではありません。そこで、落花生を植える前に緑肥作物を栽培して、それを鋤き込んでふわふわとした養分の多い土を作って種蒔きに備えます。
「落花生の産地が多い千葉あたりだと5月くらいに種蒔きをするんですが、同じようにしてしまうと、収穫時に気温が高く雨が多くなってしまう。だから、あえて種蒔きを1ヶ月後ろにずらしとるんです」。収穫が気温の低くなる晩秋になるよう調整することで、雨によるカビの心配が少なくなるといいます。「それと、もうひとつ。乾燥の方法も違うかな」。関東では、地面の上に落花生を広げて1週間ほど干した後、さらに大人の身長くらいまで積み上げる「野積(ぼっち)」といわれる方法で乾燥させていますが、湿度の高い大牟田ではすぐにカビにやられてしまいます。そこで思いついたのが、脚付きの低い机のような棚を作り、その上に積み上げて乾燥させる方法。地面と落花生の間に空間を作り、風を通してあげるのです。

収穫後、落花生が乾燥するまで雨は大敵。大雨にならぬよう祈る日々だといいます。雨の日は、ブルーシートで覆って落花生を守ります。

寒空の下、秋風に吹かれながらしっかりと乾燥させた落花生は、旨みがどんどん増して味が凝縮します。12月の初めごろには脱穀して洗浄・選別し、もう一度乾燥させて旨みをしっかり閉じ込めたら、年末にようやく出荷が始まります。
「ほとんどが手作業やけん、労力もいるし手間もかかる。けど、やっぱり好物の落花生を自分で作って、美味しく食べられて、売ることもできる喜びには代えられないし、作ることがすごく楽しかですね。しかも今、まさに観光列車の料理になってみなさんにも楽しんでもらえている。西鉄電車は、予備校時代に大牟田から天神まで毎日乗っていた、思い入れのある電車やけんね。いつか観光列車にも乗ってみたいね」。
冨重さんの愛情がたっぷり込められた今年の落花生は、年末年始には大牟田市内や近郊の道の駅にお目見えする予定です。

冨重農園で栽培しているのは「千葉半立ち」という品種の落花生。殻を割った瞬間の芳ばしい香りが食欲をそそり、ひと口噛むと「カリッ」という軽快な音とともに、まろやかな旨みが楽しめます。

冨重農園から1kmほど先の堤防を越えると広がる有明海。「ここから見る夕日は最高やけん」と、作業を終えた冨重さんの癒しの場所にもなっています。

大牟田市内では珍しい落花生の栽培。「落花生が好きやけん作るだけ」と楽しそう語ってくださった冨重さんの言葉のひとつひとつに、「美味しい落花生を作りたい」という情熱とチャレンジ精神が溢れていました。研究熱心な冨重さんがいらっしゃれば、大牟田の農業はこれからますます面白くなっていくのではないか。そんなワクワクを感じずにはいられません。

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