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2019.1.18

自然体でものづくり文化を伝える。白水高広さんに聞く、着飾らないまち「八女」のきほん

ヒト

八女のまちに溶け込むようにたたずむ「うなぎの寝床」には、筑後の手仕事を中心とした産品が並ぶ。

西鉄久留米駅からバスに揺られること約40分。到着したのは、情緒あふれる白壁のまち並みが今なお残る、八女の福島地区です。まち角に立つと真っ先に目に飛び込んでくるのは、土蔵造りの町家の数々。福岡県の中でもっとも南東に位置し、矢部川や星野村など大自然の恵み豊かな八女市ですが、この福島地区は古くから繁栄してきた市街地です。16世紀に築城された福島城の城下町として栄えた福島は、廃城後も職人と商人のまちとして発展。数多く残る町家からは、江戸から明治、大正、昭和と、長きにわたる時代の変遷を見守り続けてきた歴史を感じることができます。

そんな奥深い歴史を持つ八女は、仏壇・提灯・手漉き和紙・石灯籠・弓矢などの伝統工芸から、木工・焼物など個人作家による工芸品まで、今も幅広い「ものづくり」が盛んな地域。ここ、福島地区の沿道にも、提灯問屋や武具屋、仏壇屋などが気取ることなく軒を連ねます。そこに寄り添うように並ぶのは、お茶屋や手作りの蒲鉾屋、理容室など生活に根付く昔ながらの個人商店です。

今回「八女のきほん」を教えてくれるのは、この通りに店をかまえ、八女をはじめ、柳川やうきは、遠くは佐賀や長崎まで、筑後の手仕事を中心とした九州の産品を取り扱う「うなぎの寝床」の代表・白水高広さんです。佐賀出身、大分の大学を経て、現在は八女を拠点に全国を飛び回る白水さん。筑後とのほどよい距離感を保ちながら活動を続ける彼だからこそ見えてくる八女市の魅力を教えていただきました。

白水高広さん
高校生までを佐賀県小城市で過ごし、大分の大学で建築を専攻後、福岡のデザイン系専門学校を経てデザインの道へ。手がけた焼肉のたれのパッケージが福岡県庁担当者の目に留まったことがきっかけで、厚生労働省の事業『九州ちくご元気計画』の推進員として2年半、様々な商品開発やブランディング、企画などに携わる。2012年7月、筑後の産品を紹介するアンテナショップ「うなぎの寝床」をオープン。独自の編集的思考で、モノのみならず、現代におけるヒト・モノ・コトのつながりを模索し、発信中。

筑後の手仕事を中心に集められた「うなぎの寝床」では、定期的に展示会も実施。昨年同じ通りにオープンした旧寺崎邸では、筑後のみならず国内外の工芸品も取り扱っています。

古さと新しさが自然に混在する風景楽しみたい。

かつては城下町だった八女の福島地区。2002年には国の重要伝統的建造物群保存地区として選定されています。職人と商人がともに暮らしてきた歴史から生まれたまちには趣が感じられます。

江戸から昭和にかけて建てられた様々な建造物が並ぶ通りには、時代の変化を感じさせながらもある種の統一感が漂います。

八女に並ぶ町家を見てみると、間口が狭く奥に広い独特の造りをしています。実はこれ、「うなぎの寝床」と呼ばれる町家の造り。白水さんはそのまま店名にしたのだそうです。

―佐賀出身の白水さんが、筑後のものづくりを紹介するアンテナショップを立ち上げるに至った経緯を教えてください。

「大学卒業後にデザインの仕事を通して色々な出会いがあり、『九州ちくご元気計画』という雇用創出プロジェクトに関わることになったのが、僕と筑後との最初の出会いです。2年半商品開発やブランディングを手がける中で思ったのは、とにかく筑後ってものづくりの宝庫なんだということ。こんなに手仕事が残っている地域も珍しいと思います。ただ、いざ筑後そのものに目を向けると、買える場所がないし、知られてもいない。自分たちが住んでいるところでこんなに魅力的なものが作られているのに、伝わっていないなんてもったいないじゃないですか。だったら僕らでやろうと、自分たちが考えていた問題意識を具現化したのが、始まりです。」

―なぜ拠点に八女市を選ばれたのですか?

「もともと妻の実家が八女にあることもあって、『九州ちくご元気計画』のときに八女に住んでいたんです。お店を始めようと思ったときに、佐賀の方でも良さそうな物件があったんだけど、別の人に借りられてしまって。それで、じゃあ今まで自分が住んでいた建物ではじめようかって。」

―このうなぎの寝床の建物に住まれていたのですか?

「はい、ほとんどなりゆきで生きてますから(笑)。とはいえ、八女は手仕事の文化が多く残っているし、八女市をぐるりと取り囲むように、久留米市、柳川市、うきは市など、固有の地域文化が位置していることも大きいです。ただモノを売るだけじゃなくて、その背景にある作り手や文化も一緒に伝えたいというのが僕らのスタートでしたから、作り手との距離感はとても重要です。うなぎの寝床では、良いものを修理しながら長く使ってもらうために“車で行ける範囲”を基準に商品を仕入れていますけど、その意味でも八女はとても動きやすいです。」

―うなぎの寝床といえば、久留米絣を使った「もんぺ」を手がけているという印象も強いです。

「そうですね。実際、お店の全体の売り上げの6割がもんぺです。もともと戦時中の標準服として広まったもんぺですが、久留米では戦後も畑仕事の作業着として作り続けてきた歴史があって、機能性はそこで実証されている。久留米絣のもんぺは、実際に履いてみると、着心地もいいし使いやすい。それを知ってもらいたいと、最初は型だけを売っていたのですが、作って欲しいという要望が生まれて、今は縫製、卸しまでやっているので、完全にメーカーになってます。」

―アンテナショップの領域を超えてきていますね。

「そうですね。その時その時で見えてきたこと、この地域で必要と感じたことを具現化していっている感じです。このまちにアンテナショップがないからうなぎの寝床を始めたし、久留米絣のメーカーに人手が足りていなかったからメーカーにもなった。それを海外に伝えるために動画を制作したら、他の地域からも動画制作の依頼が来て、ウェブも作ってと、だんだんと多角的になってきています。でも根っこは同じで、地域文化を担保していくために商業機能も担う。経済が担保されたら、また地域文化に寄与できる、という構造で動いているので、今は自分たちのことを“地域文化商社”と呼んでいます。ちなみに今は八女仏壇のデザインもしています。」

―白水さんにとって、八女市のまちの魅力はどんなどころですか?

「八女って、観光観光していない分派手さはないんですが、まちの人が住みながらまちを守っているという普通のところがいいなと思うんです。僕がこのまちに入ってきたのはまだ9年ぐらい前だけど、そのずっと前から、このまちを残そうとコツコツ取り組んで来た地元の人たちが、このまちの土台を作っていると思います。身の丈にあったこと、必要だと感じていることを肩肘張らずにやっている。それが、僕らみたいに外から来た人間に対しても変に身構えずに受け入れてくれる土壌につながっているのかなと思います。ちょっと内向きな表現になっちゃいましたね(笑)」

まちを見渡してみると、長らく根付いてきた商店や商家と、新しい試みとしての空間や店舗が、当たり前のように隣同士にある光景が目の前に広がります。古さと新しさが統一感をもって共存するその光景は、他の地域を考えても、なかなか珍しいことではないでしょうか。
そんな古さと新しさが共に生きる白水さんおすすめの八女スポットを教えていただきました。

町屋の裏も表も味わえる
白水さんおすすめの八女スポット

そば季里 史蔵(ふみのくら)

もともと商家だった町屋を改修したそば屋。奥のカウンターや椅子、かんざしなど店内の様々な調度品は、店主のお父さんが長年コレクションしていたもの。中には購入可能な装飾品もあるそう。

―趣きあふれるそば処ですね。歴史を感じる調度品が店内のいたるところに散りばめられています。

「ここはもともと商家だった建物だと聞いています。奥のカウンターや棚などは、すべて店主・篠原史諭さんのお父さんのコレクション。テーブルの脚が足踏みミシンだったり、天板の中のガラスケースにアンティーク雑貨が飾ってあったりと、装飾も凝っています。気に入れば売ってくれるものもありますよ。」

―白水さんはどんな時に利用しますか?

「お客さんが来たときに案内することが多いですね。おすすめは、もりそばです。あと、そば茶アイスもおいしいですよ。この店は、そばがおいしいだけじゃないんです。そば好きが高じてそば屋をはじめた篠原さんが、それだけじゃ飽き足らずに畑を借りて、八女産のそば粉まで育て始めました。そば栽培の減少に歯止めをかけるために、今じゃ九州各地の農家さんやそば屋さんと直接取引して、そばの実を卸すまでになっています。どこまでもそばへの愛に溢れてます。」

店主が育てた八女産のそば粉を使ったもりそば。使う小麦も筑後平野で育てられたものという徹底ぶり。白水さんおすすめのそば茶アイスには、自家栽培のそばの実と、そばの花から採った蜜がかかる。

泊まれる町家 川のじ

うなぎの寝床の隣にたたずむのは、築130年の町家を改修した宿泊施設「川のじ」。

―八女のまちの真ん中、しかもうなぎの寝床の隣に滞在できるなんて、とても贅沢なお宿ですね。

「そうでしょう。ゆっくり八女を散策したいという方には、本当におすすめです。一棟貸しなので気兼ねなく過ごせるし、住んだつもりで八女を歩き回って欲しいですね。テレビもないし、個室もない。でもその不便さが実にいいんです。夜はお酒を持ち寄って宴会するのもいいですし、合宿所としても最適。ちなみに朝食は「そば季里・史蔵」さんが作ってくれますよ。」

―この建物も空き家だったのですか?

「もともと提灯を作っていた場所でしたが、20年ほど空き家になっていたようです。それを、地元住民がお金を出し合って改修して、2014年に宿としてオープンしました。床や階段はベンガラ柿渋の塗装、土間に三和土(たたき)を使うなど、手仕事を忠実に再現してあるのも見どころです。奥の広縁には梯子階段があって、建築物としての構造も興味深い。宿主の中島宏典さんは八女の空き家活用や林業プロジェクトにも積極的に関わっておられるし、八女のことを知りたい方はまず中島さんに会いに行かれるといいかも。」

中島宏典さん・絵美さん夫妻が営む「川のじ」には、海外からのお客さんも増えているとか。古き良さは残しつつ、水まわりなどはきれいに改修。昔ながらの暮らしを快適に楽しめるのも魅力です。

旧八女郡役所

明治20年代から大正2年まで、旧八女郡の郡役場として使われていた建物。壁には八女材を使用し大規模改修を行ったそう。

―立派な木造建築ですね。かつて八女の役所だったとは驚きました。

「旧八女郡の郡役場として使われたあとは、木蝋商店や銃弾製造工場、飼料店などが入り、25年ほど使われていなかったのを、地元のNPO団体が譲り受けて7年間かけて改修し、昨年ようやく部分的に営業をスタートしました。改修前は、屋根も壁も床も、すべてがボロボロの状態だったそうです。」

―お客さんがひっきりなしに出入りしているあそこは何のお店ですか?

「『朝日屋酒店』という酒屋さんです。」

「もともと八女で営まれてきた酒店さんが、改修後に移転してきました。店主の高橋康太郎さんは、八女の空き家の活用を考えるNPO法人『八女空き家再生スイッチ』の理事で、この旧八女郡役所の管理・運営もしています。八女のことを知り尽くす彼には、僕もずっとお世話になっています。ちなみに『川のじ』の中島さんも、同じNPOのメンバーです。」

旧八女郡役所には、地元の名店「朝日屋酒店」も入っています。店主の高橋さんの人柄に惹かれて会いにやってくるお客さんも多いそうです。

―ユニークなお酒が揃っているように感じます。

「高橋さんのセレクトするお酒は、有機栽培の麦や米を使った焼酎とか、独自の製法を大事にしている作り手など、個性のあふれるものが多いです。さながら酒版アンテナショップといったところでしょうか。高橋さんのご親戚が造る『繁桝』は八女のお土産におすすめ。地元の人々の晩酌を支え続ける名酒です。」

白水さんおすすめの『繁桝』。八女産の米や梅を使用した純米酒や梅酒などシリーズの品揃えも豊富。

朝日屋酒店から続く土間続きの空間は、旧八女郡役所のなかでも存在感を放つ、通称「大きなホール」。今後さまざまなイベントや展示などにも活用されていく予定だそう。旧八女郡役所にはこのほか、地元の子どもたちが集まる絵本屋さんなども。

―最後に、地域を味わう旅列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」の運行にどんなことを期待されますか?

「僕は“店”というものを通して筑後に向き合っていますが、列車には店とまた違った魅力があるんじゃないでしょうか。店は動けないけど、列車は移動するし。僕らとは違う発信の仕方で、筑後の良さを広く伝えていってくれるといいなあと思います。」

白水さん、ありがとうございました。
おすすめいただいたスポット情報はコチラです。

[INFORMATION]

■うなぎの寝床
住所:八女市本町267(MAP
電話番号:0943-22-3699
営業時間:11:30~18:00
休み:火水(祝日は営業)

■そば季里 史蔵(ふみのくら)
住所:八女市本町154(MAP
営業時間:11:30~15:00 17:30~20:00
休み:火

■泊まれる町家 川のじ
住所:八女市本町264(MAP
電話番号:080-1485-4202(宿主・中島)
HP:https://www.yame-machiya.com/

■旧八女郡役所
住所:八女市本町2-105(MAP
HP:http://gunyakusyo.com/

■朝日屋酒店
住所:八女市本町2-105 旧八女郡役所内(MAP
電話番号:0943-23-0924
営業時間:9:00~19:00(日曜のみ10:00~17:00)
休み:不定休

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