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2020.1.30

使うほどに愛着が沸いてくる 素朴でやさしい土味が魅力の小石原焼

ヒト

福岡県と大分県にまたがる英彦山の麓に広がる焼きものの里、福岡県東峰村小石原。約350年の歴史を持つ小石原焼は、経済産業大臣が指定する伝統的工芸品で、福岡を代表する陶器です。素朴でぽってりとした土の質感や実用面での使いやすさに加え、最近はデザイン性の高い白い器やモダンな模様が施されたものも増えているとあって、あらたなファン層にもその人気は広がっています。
地域を味わう旅列車『THE RAIL KITCHEN CHIKUGO』では、コース料理のアミューズを載せるプレートや取り皿に、この小石原焼を取り入れました。今回は、小石原焼の伝統的な技法に独自の柄をあしらったデザインで人気の『翁明窯元』の二代目鬼丸尚幸さんにお話を伺います。


翁明窯元 鬼丸尚幸さん
1977年 福岡県朝倉郡小石原村(現在の東峰村)に生まれる。東京芸術大学美術学部工芸科にて陶芸を学んだのち、2009年より『翁明窯元』の二代目として作陶を開始。小石原焼だけでなく青白磁の作家としても活動し、数々の賞を受賞している。

毎日の生活が豊かになる、日常使いしたい器

小石原焼は1682年に黒田光元が伊万里から陶工を招いて窯場を開いたのがはじまりといわれています。当時10軒だった窯元は、昭和30年代の民芸・民陶ブームをきっかけに増加。現在50軒の窯元が小石原の陶土や材料を使って精力的に作陶しています。土っぽい素朴な風合いのものや、日常使いしたくなるシンプルな作風のものが多く、毎日使い込むほどに味わいが生まれてきます。その完成度の高さは「用の美」と称され、毎年、春と秋に開催される「民陶むら祭り」には、県内外から訪れた多くのファンで早朝からにぎわいをみせています。
小石原焼の一番の特徴は「飛びかんな」と呼ばれる模様です。化粧土をかけた器をろくろに乗せ、回転させながらかんなを当てると、かんながピョンピョンとはじけ飛び、かんなの当たったところだけが削られます。ろくろの回るスピードに目を奪われているうちに、あっという間に見事な模様が完成します。「ろくろの回し方で模様の間隔も変わるため、かなりの熟練が必要なんです」と尚幸さん。細かな‘てんてん’が‘ぐるぐる’と連なった幾何学的な装飾は、どこか懐かしさを感じます。他にも「刷毛目」や「櫛目」など、器にちょっとした華やかさを添える小石原焼ならではの装飾が目を楽しませてくれます。

豊かな小石原の風土から生まれる器たち。窯元を巡ると、伝統的な技法の中にもそれぞれの個性を感じることができます。

『翁明窯元』の陶器の特徴は、これらの伝統技法を取り入れながらも、現代の生活にマッチするデザインを生み出しているところです。『翁明窯元』ならではのマットな質感と控えめなグレーの色彩は、『THE RAIL KITCHEN CHIKUGO』で使う木製プレートや金彩の角皿と並べてみると互いにひきたて合う相性の良さです。
『翁明窯元』のギャラリーには、白の化粧土に大きな水玉を大胆にあしらったプレートや、つや消しの釉薬を使ったマットな深鉢、飛びかんなの上に小さなドットをちりばめた浅鉢など、小石原焼の良さを生かしつつも、‘今感’がしっかりと伝わる器が並んでいます。「水玉やドットなど、僕たち男ではまず行き着かない発想。食器って最終的には女性が触れることが多いですから。使う人の考えを取り入れて、気に入って使ってもらえるようにしたい。だから、母や妻、販売してもらっている店舗の方の意見を伺いながら開発していきました」と尚幸さん。今やすっかり『翁明窯元』のシンボルとなっている水玉柄も、発案から形になるまで2年近くの歳月がかかったといいます。「自分たちの色を出すために作ったというよりも、どうすれば気に入って使ってもらえるのだろうかと考えていくうちに、自然に生まれてきた形だったのかなと思います」

盛り付けた時に料理が映える“主張しない”デザイン

小石原焼といえば、白地に焦げ茶色の飛びかんなを施したコントラストの強いデザインを思い浮かべますが、『翁明窯元』の陶器はどちらかといえば全体が白っぽくコントラストも控えめ。ざっくりとした土味をしっかりと感じることができます。「小石原の土は、鉄分が多いため焼くと黒っぽくなります。白い化粧土を全面に塗ってから飛びかんなを打ち込むと、白地に黒っぽい模様になるんです。それをあえて素地のうちに打ち込むことで、飛びかんな自体がそんなに表にはでてこないようにしています」と尚幸さん。器に表情を出しながらも主張はしない。コントラストが強くない分、料理を盛り付けたときに素材をひきたて独特の存在感を醸し出してくれるのです。
「同じように、器に色があると料理の邪魔になってしまう時も。なのであえて色はのせずに、素材の土の色と釉薬の質感だけでできるデザインを考えています」。あくまでも料理が主役。色の主張がないので、野菜や魚、肉、スイーツ、果物…とどんな素材にもしっくりと馴染み、料理をおいしくみせてくれます。

素地に小石原の特徴である“飛びかんな”をかけ、化粧土をのせて焼き上げます。

白地に飛びかんなが映え、やさしい印象に。一枚一枚お皿の表情が違うのも手作りの良さです。

『THE RAIL KITCHEN CHIKUGO』で使用するのは、『翁明窯元』でも人気の定番商品、白とグレーのやわらかなツートンカラーのプレートです。直径20㎝ほどの使い勝手のいい大きさは、パン皿や取り皿として日常使いにももってこい。食洗機や電子レンジも気にすることなく使えます。「好みはあると思いますが、どんな年代の方にもしっくりときてもらえるプレートになっていると思います。観光列車のお料理を味わいながら、器の雰囲気も気に入っていただけたらそれが一番ですね」

ギャラリーに隣接する工房内には、窯に入る出番を待つ器がびっしり。お父様の翁明さんと一緒に日々作陶をされています。

『翁明窯元』のギャラリーには、列車で使われているようなシンプルな小石原焼だけでなく、翁明さんが作られる伝統的な高取焼の茶器なども販売されています。実際にひとつひとつ手に取ってみて、お気に入りをみつけてみてはいかがでしょう。

[INFORMATION]
■翁明窯元
住所:朝倉郡東峰村大字小石原1126-1(MAP)
電話番号:0946-74-2186
営業時間:10:00~18:00

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